新たな技術潮流をキャッチアップし続け、
今後も変わることなくモダナイゼーションソリューションを提供
世界には8,000億行を超えるCOBOL資産があり、戦略的に重要な存在であり続ける。既存資産を活かしつつ、将来にリスクを持ちこさないモダナイゼーションソリューションを提供するのが当社の使命―2024年11月20日(水)、マイクロフォーカス合同会社は「モダナイゼーション フォーラム 2024~新たな価値を創造するDX戦略~」を開催。DXレポートの実質的な筆者である元経済産業省 和泉憲明氏をSpecial Sessionに迎えたのを始めとして、多彩な角度から企業ITのモダナイゼーションのあり方や方向性を探った。
マイクロフォーカス合同会社にとって、2024年は2つの意味で節目の年となった。まずは、日本でCOBOL事業をスタートしてから40周年目を迎えたことである。次に、米国ロケットソフトウェアに合流したことだ。同社は米国マサチューセッツ州ボストンに本社を置く、メインフレームソフトウェア ソリューションベンダーだ。このビジネス統合により、ロケットソフトウェアは既存資産をメインフレームからWindows、Linux、クラウドまで、幅広い環境で有効活用できるソリューションを提供可能になった。開会の挨拶に立ったマイクロフォーカス合同会社 職務執行者 田島 裕史は、「今後も変わることなく、私たちは日本のお客様にモダナイゼーションソリューションを提供していきます」と宣言した。
Key Noteには、Rocket Software, SVP of Hybrid Cloud Sales, Stuart McGillが登壇した。
McGillはまず、米国ロケットソフトウェアの紹介から始めた。同社は、IBMメインフレーム向けソフトウェアの開発で知られ、30年以上の歴史を持ち、3,000人以上の従業員を有し、20カ国以上で事業を展開する企業だ。多くの技術がIBMブランドで展開されており、実際にはメインフレームユーザー企業の多くが同社の製品を利用している。近年はM&Aを通じて成長、特にアプリケーションプラットフォームのモダナイゼーションに注力している。そうした中で2024年5月に旧 英国マイクロフォーカス社のCOBOL事業を買収し、顧客のシステムやアプリケーションの将来のビジネス展開を支援する体制を強化した。同社はまたIBMやAWS、Googleなどパートナーシップを重視しており、グローバルなオペレーション支援を提供している。リーダーシップチームには、マイクロフォーカス時代から長年にわたり当事業を牽引しているMcGillとともにこの後に登壇したSVP of Hybrid Cloud, Neil Fowlerが加わった。
「以前より、ロケットソフトウェアはITサービスの提供で最大級の規模を誇っており、非常に高い専門性、長年の経験を持つ企業でした。そこに我々のアセットが加わったことで、お客様にとって、またパートナーとして協業する企業の皆様にとっても、大きなメリットを提供できると自負しています」(McGill)
一方、Fowlerが語ったのは、ロケットソフトウェアの最新COBOLテクノロジーについてだ。専門調査機関によると、8,000億行という予想をはるかに超えるCOBOLのソースコードが使用されていることが判明した。これらのアプリケーションは企業にとって戦略的に重要であり、DXを進める上でも重要な位置を占めている。Visual COBOLなどのツールを使用すれば、プログラマーはJavaやC#などと同様の統合開発環境で作業でき、そこにはアプリケーションのアーキテクチャを理解するための開発支援機能も統合されている。
Fowlerは来場者にこうメッセージを送った。
図1 ロケットソフトウェアの企業プロフィール
続くSpecial Sessionに登壇したのは、元経済産業省 商務情報制作局 情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長として、実質的な「DXレポート」の著者として知られている株式会社AIST Solutions Vice CTO 和泉 憲明氏だ。
私たちはとかく、毎日の生活は同じ繰り返しであると考える傾向にある。しかし、通勤風景一つとってもそれは着実に変わっている。今、大半の人々が車内で見入っているのは紙の新聞ではなくスマートフォンだ。情報の集め方や働き方が大きく変化している中で、変わっていないと錯覚して同じ業務プロセスやビジネスモデルを続けていたら、それは古い企業になる、と和泉氏は訴えた。
「30年以上同じシステムを継続利用しているというのは、ある意味、会社が存続危機にあると思っていただいていいと思います。私は『DXレポート』で、COBOLやホストを早く撤去しろと言いたかったわけではありません。これまでのITシステム開発の延長ではないもの、つまり新しいビジネスに向かって、デジタルの力でアップグレードしていくことが必要だという趣旨で書きました。ITのインフラ刷新ではなく、製品、サービス、ビジネスモデル、組織、プロセス、カルチャー、変えられるものすべてを市場や社会に合わせてどうやって変化させるかということがポイントです。主成分を3つ挙げるとしたら、手段がデータとデジタル技術、トリガーは顧客や社会のニーズ、そしてゴールは競争優位性です」
図2 DXの中心的概念はトランスフォーメーション
「SoRもビジネス競争力を持つシステムへとアップデートを図るべきです。ビジネス競争力を持つシステムとは、最新インフラストラクチャーや技術の継続的な導入が行えること、災害や障害への対策が十分行われていること、そして、ビジネス環境やニーズの変化に迅速に対応できること。これらの特性を備えたシステムです。」
図3 ビジネス競争力を持つシステムを
モダナイゼーションで実現
こうした基盤づくりのための移行方法は、現在のシステムを破棄して一から再構築を行うリビルド、標準機能をベースに独自の仕様を作りこむパッケージ製品利用、現在のアプリケーションを別の開発言語に変換して再構築を行うリライトが知られている。しかし、いずれもコストや開発期間に課題があることにくわえ、リライトで多く選択される Java への変換は、計算処理などでパフォーマンスの低下リスクがあることも考慮しなければならない。これらに対し、ロケットソフトウェアが推奨するのはモダナイゼーションだ。なぜなら、これは品質の高い既存資産を活用しつつ、DXで求められる新規開発も行える両輪のソリューションだからだ。前述のソリューションと比較して、コスト、開発期間、プログラム品質、将来の拡張性、いずれの項目においても大きな優位性を持っている。
ロケットソフトウェアのモダナイゼーション支援製品は、COBOL製品とエンタープライズ製品の2つに分かれており、COBOL製品はオープン環境やクラウド環境で利用できる。また、Javaや.NETとともに既存資産を活用し、コンテナ技術にも対応している。一方、エンタープライズ製品はCOBOL製品の上位版で、IBMメインフレームアプリケーションの継続利用も支援、これらの製品により、システムやアプリケーションの柔軟な運用が可能になり、DXを始めとするビジネス変革をサポートする。
続いて、Red Hatプラットフォームを採用したモダナイゼーションのあり方の例が、レッドハット株式会社 テクニカルセールス本部 アプリケーションサービス ソリューションアーキテクト部 ソリューションアーキテクト 暮林達也氏から示された。
Red Hatでは、物理、仮想、オンプレミス、クラウドなど、どのような環境でもコンテナアプリケーションを動かすことができるというオープン・ハイブリッド・クラウド戦略を提唱している。COBOLが多く利用されているバッチ処理では、その処理時間の短縮を求められている。Kubernetes/OpenShiftであれば、シンプルかつスピーディーに処理を実行することができる。空いているノードを探してジョブを入れる動的スケジュールや、処理に必要なだけのストレージを処理に必要な分だけアタッチし、不要になったら解放するという動的ストレージプロビジョニングといった機能が利用できるからだ。処理を現実のものにするエコシステム構築に当たっても、近年は日本製のパッケージが登場し、ラインナップ拡充が進んできている。
このように暮林氏は語り、Rocket® Visual COBOLで書かれたアプリケーションをOpenShiftで動かし、なおかつCI/CDを行うデモを実践してみせた。それは、COBOLアプリケーションでありながら、コンテナイメージであれば、ほとんどCOBOLであることを意識することなく、簡単にクラウドネイティブな世界観を実現できることを示していた。
図4 拡充が進むRed Hat OpenShift
エコシステム
ここからは、Rocket® エンタープライズ製品を活用して大きな成功を収めた事例について、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社 リスク統括部 企画チーム 調査役 岡田麻由氏が発表した。
同社では、みずほグループ内に複数存在していたデータセンターの統廃合に伴い、IBMメインフレーム上の2つの業務システムの課題について対応を協議した。これらのシステムは複数の課題を抱えていた。システムが設置されているデータセンターの閉鎖が控えていたことに加え、メインフレームや周辺機器の老朽化が進み、保守期限が迫っていた。また、業務アプリケーションがPL/Ⅰ、COBOL、FORTRAN、EASYなど多様な言語で構成されていたこと、さらには、業務やシステムの規模に比べ運用コストが高額であり、その中にはジョブの手動実行が多く行われていたことも含まれていた。加えて、メインフレームの経験者や有識者が不足しており、このままではシステムの維持が難しい状況となっていた。そこで、新データセンターのプライベートクラウド上に、同社はWindowsサーバーで環境を構築し、Rocket® エンタープライズ製品を使って対象の業務システムをオープン化することを決断、あわせてシステム機能を改善し、JP1を採用してジョブの自動化を実現した。
これらの取り組みの結果、約1年という短期間で計画どおりの移行に成功した。移行後は、言語がCOBOLに統一されて保守性が格段に向上し、PowerShellやJP1の利用では、メインフレームの知識が不要となって、要員を選ぶことなく開発が行えるようになった。その一方で、今までどおりJCLが使用でき、以前の保守要員がそのまま担当することで、ノウハウの継承も実現している。そして何より、移行とシステム最適化により、シンプルでコンパクトなプログラムとなってコストダウンが図れた。運用保守要員についても融通が効くようになり、体制を作りやすくなっているという。
岡田氏はプロジェクトをこのように総括した。
図5 みずほリサーチ&テクノロジーズ
におけるシステム刷新の成果
今回のプロジェクトにシステムインテグレータとして参画したキヤノンITソリューションズ株式会社が、技術的側面から本事例について解説した。同社 ビジネスソリューション統括本部 ビジネスソリューション第二開発本部 第二開発部 乾慎也氏はこう語る。
「今回のプロジェクトの最大のポイントは、短期間での完遂が必須でした。そこで、確実なマイグレーションのために、みずほリサーチ&テクノロジーズ様では2つの選択を行われました。1点目は、実績のある製品としてRocket®エンタープライズ製品を選択したこと、2点目は、Rocket®エンタープライズ製品の活用実績と多様な言語からの移行実績を重視し、システムインテグレータとして当社を選定いただいたことです」
「これら3点は期間の短いプロジェクトを成功させる上で重要なポイントであり、安心・安全・確実なマイグレーションの実現に欠かせません」(乾氏)
図6 みずほリサーチ&テクノロジーズ
におけるマイグレーション成功のポイント
最後のセッションには、日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 メインフレーム事業部 ソリューションテクニカルセールス シニアテクニカルスペシャリスト 加山雅俊氏が登壇した。
レガシーシステムが抱える問題はいくつかあるが、その一つに「アプリケーションが複雑化している」というものがある。なぜ複雑化するのか。保守改修しながら長く使い続けるという経年利用が大きな原因と目されがちだが、加山氏は本当に経年だけが問題なのかと問題提起し、保守のやり方が健全であったかどうか振り返ってみてほしいと訴えた。前者の場合、工数が優先されるために、コピー新規という手法を取ったり、修正コピー句の参照プログラムをすべて再コンパイルするのではなく、修正が必要なプログラムだけコンパイルしたりする。それで起きるのはコードの冗長化や構成管理の破綻だ。また、アプリケーションを見直す機会はあったか。COBOLの場合、言語の上位互換性が高いがために、Javaなどのように非互換対応のための大規模改修の機会が訪れない。しかし、アプリケーション複雑化防止策を講じなければ保守工数は右肩上がりになる。
レガシーシステムの課題には、「アプリケーション有識者が不足している」「後継者育成が難しい」という人の問題もある。若手技術者は、デファクトスタンダードなオープン技術を身に着けて広範に活躍したいと考えている。これについては、オープン技術の各種ツールを活用するという方法がある。統合開発環境、パイプラインオーケストレーター、SCMツール、ビルドツールを組み合わせるなどして開発プロセスを刷新し、若者のモチベーションを維持するというわけだ。
図7 オープン技術を活用したCOBOL開発環境/プロセス例
「せっかくモダナイゼーションに取り組むのであれば、その後なるべくレガシー化を加速させない防止策も施していただきたいと思います。また、モダナイゼーションは一過性ではなく、地道に継続的に行う活動です。リファクタリングで増える工数を単体テストと自動化をセットで取り組むことで抑えつつ、幅広い技術者が保守しやすい環境を実現していただければと考えています」
加山氏はこう語ってセッションを締めくくった。
【Key Note】
COBOLとモダナイゼーションの世界的動向と私たちの歩み
【Special Session】
レガシー刷新とDX推進を両立させるモダナイゼーション戦略とは
【Technical Session】
未来のビジネスに既存資産を活かすモダナイゼーション
【Our Solution & Case Study】
みずほリサーチ&テクノロジーズ様におけるリホスト事例
~多様な言語で構成された複雑なシステムを1年間で刷新~
【Special Talk】
COBOLの課題を改めて考える