生成AIの力を見極め、モダナイゼーションの王道で信頼ある変革を
基幹システムを支える COBOL や PL/I といったレガシー資産が抱える課題を、生成AIやクラウドなどの最新IT技術はどう解決し、進化させることができるのか―2025年10月28日(火)、AMCソフトウェアジャパン合同会社は「モダナイゼーションフォーラム2025~次世代ITにおけるレガシー資産の価値と進化~」を開催。急伸する生成AIの今後の可能性に触れながら、レガシー資産の再構築や技術的な刷新、最新事例など、多角的な視点からモダナイゼーションの今を紐解いた。

Key Noteには、日本マイクロソフト株式会社 クラウド&AIソリューション事業本部 クラウド&AIプラットフォーム統括本部 Azure金融・パブリックセクター技術本部 シニアソリューションエンジニア 佐藤 直樹氏が登壇した。
今日、COBOL はどれだけ利用されているのか。佐藤氏はAMCソフトウェアジャパンがリリースしたレポートを示した。これは、現在でも8,000億行以上のCOBOLコードが日常的に本番システムで実行されており、これまで3,000億行程度ではないかと推定されていた値を大きく上回る結果を明らかにしたものだ。実際、COBOL はメインフレームで基幹のマスターデータ管理、計算処理、ビジネストランザクション管理、資産管理などで使われているだけでなく、オープンシステム上でも、LOB(Line of Business)アプリケーションが動いている。
「日本のメインフレーム出荷台数は世界の3割だと仮定すれば、2400億行のコードが日本国内で動いている計算になります。開発言語は Java や C#、Python など多様化しており、COBOL の位置づけは相対的に低下しているものの、非常に重要なデータを引き続き扱っています。COBOL資産は、デジタルトランスフォーメーション、AIトランスフォーメーションの土台として重要な資産です」(佐藤氏)

図1 クラウド移行戦略とモダナイゼーション戦略
モダナイゼーションの観点では、生成AIの存在も忘れることはできない。よく寄せられる問い合わせは「コードを生成したい」「他の言語へ変換したい」といったものだが、今のところ、AI活用の現実的なアプローチは、大量のファイルをバッチ型で処理し、人+AIの協調作業で品質を上げることだと佐藤氏は提言した。たとえばバッチ型の Azure OpenAI Service で、プロジェクトにある大量のコードとドキュメントをまとめて処理し、出力された中間成果物を、Copilot型の GitHub Copilot Chat でコードやドキュメントの処理結果を確認する。バッチ型とCopilot型はうまく使い分け、どちらのパターンにおいてもコードの生成をAIに任せきりにしないことが肝心だと、同氏は釘をさした。それでも、クラウドや生成AIを活用したCOBOL資産のモダナイゼーションが、レガシー資産を未来につなぐ重要な技術戦略であることはまちがいないようだ。
更にマイクロソフトでは、現在AIデータセンターを建設しており、AIモデルを進化させるシリコン開発にも取り組んでいる。Microsoft Azure、Microsoft 365 Copilot、GitHub Copilot など彼らの提供するソリューションが、COBOL資産のモダナイゼーションとイノベーション基盤の構築を強力に支援すると佐藤氏は訴えた。
ロケットソフトウェアには哲学がある、と McGill は切り出した。それは、お客様に混乱なくモダナイゼーションを経験していただくことだ。“混乱なく”とは、安全に、大規模に、そして競合他社のどのソリューションよりも迅速にこれを実現することを意味する。こうした中で今、私たちは新たなテクノロジー時代の第一歩を踏み出してもいる。生成AIがその中心にあり、どのように生成AIを活用していくかを模索しつつある。しかし、性急に動くのは危険だ。アナリストも、コードの書き直しやリライトに生成AIを活用することは回避すべきとレポートしている。現時点では開発者の体験を補完する目的にとどめた方がいいと McGill も主張する。


図2 ロケットソフトウェア製品におけるAIロードマップ
具体的には、「COBOLコードを説明してもらう」「複雑なコード文の解釈を手伝ってもらう」「各プログラムのサマリーを作成してもらい、全体像を把握する」といった形だ。生成AIのおかげで、必ずしも COBOL の経験がなくてもCOBOL開発に携わることができるようになることを意味しており、ロケットソフトウェアでは、すでにいろいろな機能のAIを実装し始めている。バージョン10では統合開発環境の中でコーディングの支援を行い、バージョン11では、コードの説明ができるようになる。これ以降もロードマップを作成しており、次々とエージェンティックAIを適用していく。
ただ、AIは重要な機能であるものの、これが COBOL のモダナイゼーションパターンの優先順位をくつがえすわけではない。レガシーシステムからの移行にあたっては、ロケットソフトウェアの持つ製品ポートフォリオとの間で評価とギャップの特定を行うこと、移行可能なサービスを特定し移行を支援すること、マネージドサービスオペレーションを行うことも重要だ。ロケットソフトウェアによるアプリケーションモダナイゼーションは、信頼性の高い迅速なアプリケーションリプラットフォームを通じて、引き続きデジタル変革の加速、AIツールによる組織ナレッジの保護、より自由度の高いアーキテクチャなどを実現していく。
「かつて、COBOL は英語に近い冗長な言語と言われたものです。しかし、今生成AI企業の創業者が『今、最もホットなプログラミング言語は英語』だとつぶやいています。生成AIの発展により、私たちはどんどん自然言語によるプログラミングに近づいています。COBOLの弱点が強みに変わる将来がもうそこまで来ているといえるのではないでしょうか」(McGill)
最初に演題に向かったのは、AMCソフトウェアジャパン合同会社 COBOL事業部 技術部 ソリューションアーキテクト 朝日 宣文だった。
レガシーシステムの移行には多くの課題が立ちはだかる。「資産のブラックボックス化」「現状からの変化に対する不安や抵抗」「既存システムの維持・投資の継続」「時間経過による移行計画の変更」などがその主なもので、これらが負のスパイラルを描いているという。その連鎖を断ち切るためには、レガシーシステムが長期にわたりビジネスを牽引する重要資産であることを認識して守る意識を持つとともに、開発・運用コストの削減や新しい技術の導入、継続的な保守運用体制の構築によって、資産を最短・安全に未来へつなぐ取り組みが重要であると、朝日は強調した。
また、生成AIを活用したCOBOL開発スタイルを改善する例を紹介した。技術者育成が進まない二大原因に、「スムーズな開発・デバッグが行えない」ことと「ナレッジが未整備で、情報検索に時間を要する」ことがあるが、前者に対して、ロケットソフトウェア製品では、他の開発言語と同様、生成AIを活用したIDE開発が行える。また後者については、問合せ内容などによってパブリックLLMだけではなくローカルLLMも活用した自然言語によるナレッジ検索を紹介した。

図3 ロケットソフトウェア製品が
基幹システム移行全体を支援
そのデモとして、書籍情報を管理するアプリケーションを Microsoft Copilot とローカルLLMと対話しながら、コードの完成度を高めていくというものだった。また、開発作業中に得られたコード例をナレッジサーバーに蓄積することで、日常業務の中でアップデートし続けられる保守運用環境構築も提案してみせた。
「COBOL開発に生成AIを導入することで、他の技術知識を活用できるだけでなく、COBOL開発・習熟速度向上が見込めるなどの効果を得られます。その一方、生成AIの導入時には技術者が統合開発環境上で生成AIからの出力結果を容易に検証・理解するための開発環境を用意することも重要です」(朝日)
ここからは、AMCソフトウェアジャパン合同会社 COBOL事業部 営業部 セールスリプレゼンタティブ 三戸 絵理子が、COBOLシステムのモダナイゼーションの事例を紹介した。その一つ、欧州最大の鉄道貨物輸送業 DB Cargo社のシステム子会社 DB Systel社は、IBMメインフレームで動いていたDB Cargo社の会計管理システムを既存資産の活用/合理化を行いながら AWS へ移行、運用コストの50%削減、冗長コードの約50%削減、人材プールの拡大を実現した。「何より重要なのは、これらのシステム移行はゼロダウンタイムで実現されたということです。止められない基幹システムを低リスクで進化させた本例は、まさに未来につながるモダナイゼーションでした」と三戸は語り、ロケットソフトウェアのエンタープライズ製品が、継続的なデジタル変革を可能とするクラウド基盤への移行を導いたことを報告した。
最後の登壇者は、日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 メインフレーム事業部 ソリューションテクニカルセールス シニアテクニカルスペシャリスト 加山 雅俊氏である。
加山氏は「モダナイゼーションフォーラム2024」に登壇し、COBOL のモダナイゼーションは一過性ではなく継続的な活動であるべきこと、継続的な取り組みの中でも単体テストのあり方に焦点を当てることが重要と提言した。それから1年。昨年と決定的に違うのは生成AIの進展だ。同氏のところにも「生成AIを活用したい」という声が数多く寄せられているという。
実際、同氏も COBOL のコード説明やコード作成を生成AIで試してみた。その結果、コード説明での利用は COBOL になじみのないエンジニアや初心者にとっては有用であり、有識者やベテランにとってもコードレビューなどの際に役に立つという感触を得た。コード生成に関しては、テスト自動化などで大量にテストコードが求められる場面で有用であると感じる。しかし、生成AI活用を総じるならば、現時点ではまだ開発作業のごく一部を支援するにすぎず、開発全体の生産性向上によるコスト削減といった、目に見える定量的な効果は得られていない、とする。
COBOL のモダナイゼーションという観点で最強のリファクタリングとなるのは、プログラムで使用する半角シンボルを日本語に置き換え、可読性を高めることだ。すらすら読めるコードがあれば、プログラム仕様書は要らなくなる、と加山氏は主張する。もちろん、すべてのドキュメントが不要というわけではない。保守業務のためのドキュメント、業務単位で処理の概要を説明するドキュメントは有用だ。
また、開発プロセスの見直しも優先すべき事項だ。たとえば、工程完了基準や工程そのものの見直し、開発生産性を向上するためのツールの見直し、将来的な活用を考えたドキュメントのファイル形式の見直しなど、ポイントはいくつもある。慣習で漫然と踏襲するのではなく、適切に見直しをかけていくことが望ましい。生成AI活用が本当に開発に役立つのであれば積極的に適用すべきだが、AIを活用すること自体が目的になったり、既存のプロセスに無理やり合わせるために余計な作りこみをしないように注意が必要である。
「たとえば『要件を与えたら修正箇所を特定してくれる』『設計情報を与えたらコード修正してくれる』といったことが可能になったら、率先して利用するようになるでしょう」と加山氏。生成AIの進化スピードを踏まえ、現時点のCOBOL開発では適度な距離感を保ちつつ、モダナイゼーションを軸にプロセスを見直すこと。そして生成AIが本当に開発に役に立つタイミングが来るまでの間は過度な依存を避けて将来の技術変化に柔軟に対応できる環境を整えることが重要だと同氏は結論づけていた。

図4 COBOL開発で生成AIに期待すること
【Opening】
開会のご挨拶
【Key Note】
生成AIが業務システムのモダナイゼーションに与えるインパクト
~Microsoft AIが変える基幹システムの再構築~
【Leadership Session】
COBOLとモダナイゼーション:世界の潮流とRocket Softwareの進化
【Our Solution】
既存資産を守り、最短・安全に未来へつなぐ基幹システム変革
~ロケットソフトウェアのモダナイゼーション~
【Special Talk】
続:COBOLの課題を改めて考える