コスト削減を目指したIBMメインフレームのリホスト・マイグレーション
操作性を変えることなく、大幅な処理速度の向上を実現
王子製紙等を中核事業会社とする王子グループのIT戦略と実行を担う王子ビジネスセンター株式会社では、2014年、基幹システムが稼働するIBMメインフレームを廃止し、システムのコストダウンを図ることを決定しました。綿密な検討を重ねた後、リホスト・マイグレーションを選択、そこで採用されたのがMicro Focus Enterprise Developer / Enterprise Serverでした。
第1次マイグレーションが完了した現在、同グループではコンピューター処理速度の大幅な向上を実現し、今までどおりの業務システムの使い勝手も享受。マイグレーションコストに関しては、メインフレーム撤去後3年で回収可能という目処が立っています。
日本の紙製造におけるパイオニア企業 王子製紙。同社を中核事業会社に、事業分野は製紙の域を超えて多岐にわたり、5つのカンパニーと独立事業会社群により幅広くビジネス展開しているのが王子グループです。このグループのIT戦略と実行を担っているのがシェアードサービス会社である王子ビジネスセンター株式会社で、2001年、王子製紙の情報システム部門が分社独立して誕生しました。
今日、コンピューター技術が大きく進歩し、その資源をいかに有効活用するかが重要なテーマとなっています。そうした中、王子ビジネスセンターでは、長年培ってきた業務経験と最新の技術を組み合わせ、人とコンピューターの能力を100%引き出す、安全で安定したシステム作りを目指しています。
2014年、同社は主要事業会社の工場システムや営業系システムといった基幹システムを動かすIBMメインフレームを廃止し、システムのコストダウンを図ることを決定しました。そのプログラム規模は、COBOL約13,000本、ステップ数にして約2,000万に上ります。また、JCLは約15,000本で約170万ステップ、データベースであるDB2には約1,300のテーブルがあり、VSAMも約1,000ファイル存在しました。
当初、同社ソリューション事業本部では、これらの資産をすべてJavaで書き換えるリライト・マイグレーションを構想しました。オープン系システム分野ではすでにJavaを活用していたからです。そしてシステムインテグレーター10社にシステム提案を依頼したところ、4社から提案が寄せられました。同社はIBMメインフレームのマイグレーション実績の有る2社に、サンプルマイグレーションを依頼します。同社で任意に選んだオンラインプログラムを、このシステムインテグレーターが開発した変換ツールを使って、COBOLからJavaへ書き換えてみたのです。王子ビジネスセンター株式会社 取締役 ソリューション事業本部長 緒方真一路氏は、最終確認として、このプログラムを同本部Java部門でソース解析しました。その後のメンテナンスを考えてのことです。その結果、Java部門からは“このプログラムをメンテナンスするのは困難”という回答が返ってきました。
「Java部門は『とてもじゃないがメンテナンスできない』と言いました。たとえばCICSのマクロがJavaに変換されたプログラムなどは、動くけれども極めて難しい変換がされている、そのあとのメンテナンスには向かない、と。これを聞いて我々は、プログラム書き換えは継続的なメンテナンスの障害になると判断しました」
こうして緒方氏は、Javaへのリライト・マイグレーションを断念したのです。
その後、新たに打ち出された方向性が、COBOLはCOBOLのまま、JCLはJCLのまま移行するリホスト・マイグレーションです。今度は、この分野に実績あるシステムインテグレーター2社に声をかけました。両社ともIBMメインフレームからのマイグレーション実績を有しており、一社の提案はMicro Focus製品を利用するもので、もう一社の提案はJES/CICSの特殊エミュレーターをカスタマイズして行うというものでした。コストを比較した結果、後者は“予算的に合わない”と判断。よりコストパフォーマンスの高かったMicro Focus Enterprise Developer / Enterprise Serverによるリホスト・マイグレーションを選択することにしました。
ここでさらに緒方氏は、一歩踏み込んだプロジェクト推進策を模索します。システムインテグレーターの手を借りずに、自社独力でマイグレーションができないかと考えたのです。マイクロフォーカスのエンジニア、システムインテグレーターとともに検討した結果、Micro Focus 製品の導入は初めてながら、自力マイグレーションは可能という結論に到達。これにより、マイグレーションコストのさらなる圧縮とともに、同社主導で継続的にメンテナンスを行っていくという運用体制の確立も図れることになりました。緒方氏は、2014年10月から正式にスタートしたプロジェクトの中で、この決定が最大のポイントだったと述懐しています。
2015年1月、同社はさっそくLinuxサーバーにMicro Focus Enterprise Developer / Enterprise Serverを導入。COBOL、JCL、MAPなどIBMメインフレーム上の資産はどれも例外なく、ストレートコンバージョンを行うという移行の大前提を決定した後、JES(ジョブ入力サブシステム) やCICSの設計・構築を開始しました。
「CICSの各種管理テーブル設定に関しては、Micro Focus Enterprise Serverであらかじめ用意されている移行ツールを利用しました。IBMメインフレームと同等の3 CICS構成を構想したのですが、これは大変便利に使えました」(緒方氏)
コストダウンが最大の目的だった今回のリホスト・マイグレーションですが、緒方氏は導入効果として“うれしい誤算”があったと語ります。
それはコンピューター処理速度の大幅な向上です。オンライン処理では、メインフレーム時代と比べて1/2以下に、バッチ処理では、同比1/3以下に短縮されました。緒方氏は、この理由として、LinuxサーバーのCPU数とメモリ領域がかなり潤沢で、メインフレームに比べてディスクのI/Oが飛躍的に高速化したことを挙げています。
それでいて、業務システムの操作・使い勝手は今までどおりです。エンドユーザーに対して新たな研修は必要なく、業務効率の低下はまったく発生しませんでした。ただし、文字コードがEBCDICからASCIIへ切り替わったことにより、データの並び順が変わりました。この点だけエンドユーザーに変更を伝えたそうです。
システムサイドでの導入効果としては、プログラム資産のメンテナンス技術者を増員したり、スキルチェンジする必要がなかったことがあります。もちろん、LinuxやMicro Focus製品、オープン系のDB2に関する学習は必要でしたが、COBOLやJCLはメインフレーム時代と同様の資産をメンテナンスすればいいので、今までの基幹システムチームがそのまま担当を続けることが可能でした。
そして、やはり大きなインパクトがあったのがコストダウン効果です。上記のとおり、第1次マイグレーションで150人月のワークロードでした。現在、第2次マイグレーションが進行しており、こちらは350人月に達するであろうと試算されています。調査段階を含めると総計で約550人月のワークロードが見込まれていますが、これはIBMメインフレーム撤去後約3年で投資回収可能という目処が立っています。
第2次マイグレーションは2018年1月本稼働の予定で、その後間を置かずメインフレームも撤去されることになっており、足掛け4年をかけた同社のシステム変革がそこで完成します。この大きな動きを下支えしたのがMicro Focus Enterprise Developer / Enterprise Serverでした。
IBMメインフレーム撤去によるコスト削減
Micro Focus Enterprise製品を利用したリホスト・マイグレーション
本 社
東京都中央区
創 業
1873年2月12日
資 本 金
1,038億円
売 上 高
1兆4,336億円(2015年度)
従 業 員 数
33,605名(2015年度)
グループ会社
子会社297社・関連会社73社(2015年度)
事 業 内 容
「産業資材」「生活消費財」「機能材」「印刷情報メディア」「資源環境ビジネス」の5つのカンパニーと
独立事業会社群
本 社
東京都中央区
設 立
2001年5月30日
資 本 金
5,000万円
売 上 高
40億円(2010年度)
従 業 員 数
60名、協力会社 約100名(2016年9月現在)
事 業 内 容
王子グループに関する下記の業務
・IT企画、システム資産管理
・インフラの構築・運用保守
・システムの開発・運用保守
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